
でこぼこ三人衆 Presents

👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻👻
寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
夏の夜というのは、不思議とあちら側の世界との境界線が、
どうやら薄くなるようでございます。
ふとした瞬間に感じる、生ぬるい風。
誰もいない筈の背後に漂う、気配。
それは気のせいか、それとも…
今宵お届けするのは、その昔より代々伝承されてきた、
少しばかり、怖い物語。
せっかくなので雰囲気も大切と思いますので、
部屋の明かりを少し落とし、耳を澄ませてお聞きください。
さあ、恐怖の時間の始まりです…

- 第2話 海坊主 -
これは昔々、東京都は江東区に伝わるお話です。

江戸時代、深川一帯では桑名屋徳蔵が有名であったらしい。
彼は深川のどこかの掘割の岸で回船問屋をやっていた。

回船問屋には若い衆の数も多く、商売が繁盛していた。

ある年の大晦日の夜、
大事なお得意様から今夜中に荷を運んでほしいという伝言があった。
だが、深川あたりでは大晦日の夜は
あの世のご先祖さまたちがお盆と同じように家へ帰って、
家族と元旦の雑煮を祝うと信じられていた

こういう訳で、川で死んだ人々の霊も水からあがってくるので、
その邪魔をしてはならないと、大晦日の夜は船を出すのを厳禁としていた

徳蔵は日ごろ恩になっているお得意だから、
そんな迷信に構っちゃいられないと考えたが、
若い衆はみんな休みを与えて出払っていたので、
若い女房の止めるのも聞かずに船を出した。

ところが、しばらく漕いで行くと、
川いっぱいに大きな山がぬーっとせり上がって来た。
剛胆な徳蔵は「しゃらくせえ真似をしやがる」と叫んで、
その山へまともに船をぶっつけた。

その途端に、山はすーっと煙のように消えてしまった。

徳蔵は「ざまあ見やがれ」とほくそ笑んでなお船を進めて行った。
が、今度は舳の川面に大きな海坊主が現れてケタケタと笑った。
海坊主とは首から上が目も鼻も口も無い真っ赤な大入道で、
胴体はこれも真っ赤なマントを着たような血の袋が
水の上ににょきっと立ち上がっていたらしい。

徳蔵は舳へ走っていって海坊主の頭を棹で叩きのめした。
海坊主はギャッといって血しぶきを上げながら川の底へ沈んでいった。

だが、それを切っ掛けに、船の周りに大小の海坊主がにょきにょきと現れ、
声をそろえてケタケタと笑った。徳蔵は夢中になって船縁を駆け回り、
片っ端から海坊主を叩きのめした。まさに悪戦苦闘であった。

そのころ、留守宅では女房が急に癪を起こして苦しみ始めた。
まだ小さい二人の子供がおろおろして母親にしがみついた。

だが、幸いにも表の通りから按摩の笛が聞こえたので、
子供に呼ばせた。
按摩は髭剃り跡の青く見える瓜実顔のいい男であった。
そして、針を打たなければならないといって、沢山の針を畳の上に並べた。

女房は按摩がいい男なので安心して針を打たせた。
だが、針を打つ度に血がパッと天井へはねかかり、
梁の上で小さい海坊主になってケタケタと笑った。
仕舞には梁の端から端まで海坊主が並んでしまった。
按摩は女房の癪がおさまると黙って出て行った。

「今帰ったぞ」、家へ帰って来たのが徳蔵である。
返事がないので戸をこじ開けると、
女房が血まみれのなか恐ろしい形相で虚空を掴んで倒れていたのだった…
おしまい

ということで、ちょっと想像と違った「海坊主」のお話だったと思います。
今回の一連の出来事を徳蔵は、
「これは私が船留めの禁を犯したから、祟られたのだ」と言い、
女房の葬式を済ませ、番頭に子供たちの養育を頼み、
自らは諸国行脚の旅に出たのだったが、
それでも海坊主の怨念から逃れることは出来なかったと言います。
果たして海坊主とは一体何ものだったのか?
海坊主を徳蔵が棹で叩きのめすタイミングと、
按摩が女房に針を刺すタイミングがリンクしてるようにも思える訳で
これを祟りで片付けるのか、
それとも女房の危機を知らせに現れたのか、
最後までやっぱり正体不明ですね
最後まで、お付き合い頂き、ありがとうございました!
![]()
民話伝承999🄫