~かほりこ生誕興行~
まったく興味のなかった世界に、自分の足で踏み込んだことがあるだろうか。
私は最近、「他人の“好き”を当日まで知らずに体験する」という小さな実験を始めた。
相手には“自分の好きな世界を見せてほしい”とだけ伝える。
私は内容を知らないまま、その日を迎える。
今日の集合場所は、西川口。雑踏を抜けるたび、胸の奥がざわついていく。
やがて案内役が静かに告げた。
「今日の目的は――女子プロレス。アイスリボンを観に行きます」
未知の扉の前に立つときの、あのざわめき。あなたにも覚えがあるはずだ。
会場に着いたのは午前11時30分。開場15分前だというのに、すでにファンが列を作っていた。
その場に立った瞬間、肌にまとわりつくような熱気が伝わってくる。
この日は1月生まれの松下楓歩選手とりこ選手の「生誕興行」。
初めてでも“特別な日”だと分かる空気があった。
案内された席を見た瞬間、思わず息を呑んだ。自由席とはいえ、まさかのリングサイド。
選手の息遣いまで聞こえてきそうな距離だ。
カメラを借りて撮影にも挑戦したが、設定に迷っているうちに試合はどんどん進む。
スマホ越しでは絶対に味わえない臨場感。この距離で観るプロレスは、まるで別物だった。
トトロさつき vs 叶ミク vs 緋彩ませ
勝者:緋彩ませ
松下楓歩&優華 vs キク&しのせ愛梨紗
勝者:松下楓歩&優華
杏ちゃむ vs Yappy
結果:時間切れ引き分け
海乃月雫&りこ vs 若菜きらり&緋彩もえ
勝者:海乃月雫&りこ
特典として松下楓歩選手のポートレートをいただいた。
あとで「サインももらえたよ」と聞いて天を仰ぐ。次こそは絶対にもらう。
想像以上に楽しくて、気づけば松下楓歩選手ばかり追っていた。
帰り道には「次はどこから観ようかな」と考えている自分がいた。
新しい“好き”は、案外こんなふうに始まる。
しかしゴングが鳴ると、小柄な緋彩ませ選手が真正面からエルボーを叩き込む。
“体格差=勝敗”が通用しない世界がそこにあった。